まえがき
今回、密室トリックの分類を行なうにあたって参考にしたのは、江戸川乱歩の『類別トリック集成』での分類の仕方です。この中で乱歩は密室トリックを「犯人が室外にいた場合」「犯人が室内にいた場合」「被害者が室外にいた場合」という形で分類を行なっているそうです(未読)。
この分類方法はよくできているのですが、一つ欠点があります。それは、密室の時間的な概念を考えていないため、時間的トリックの扱いに苦労している、ということです。
このためこの密室講義では犯行時刻や密室であった時間帯を錯覚させるトリックを『時間的トリック』と分類し、時間的な錯覚がないものを『空間的トリック』と分類しました。
また、「事故・自殺」と「内出血型密室」は『特殊密室』として上の二つとは別の扱いにしました。
密室トリック分類
A)空間的トリック
室外から直接犯行を行なったり、犯行後鍵がかかった状態のまま部屋から脱出したりするトリック。
1.遠隔殺人
犯人が室外から犯行を行なうトリック
ア、隙間などを利用した殺人
イ、内部の仕掛けによる殺人
2.施錠トリック
「犯人が室内にいた場合」の一つ目。部屋の外からドアに鍵をかける、またはかけたように見せかけるトリック
ア、室内の装置や室外の道具の使用によって、鍵をかける
イ、部屋の鍵で外から施錠し、それを室内に戻す
ウ、合鍵を使い、それをすり替える
エ、部屋に鍵がかかっているように錯覚させる
3.脱出トリック
「犯人が室内にいた場合」の二つ目。犯人が部屋を脱出する、または脱出したように見せかけるトリック
ア、通常の出入口でない所から脱出する(秘密の抜け穴含む)
イ、犯人が室内に隠れ、密室が破られた後に外に逃げ出す
ウ、部屋を見張ってた人物が犯人の脱出を見逃す
エ、部屋を見張ってた人物が犯人又は共犯である
オ、見張りが別の部屋を監視していた
カ、凶器を消失させ、犯人の出入りがあったと思わせる
4.死体移動トリック
被害者が密室の外で殺され、その後死体が密室に持ち込まれるトリック
ア、密室が破られた後で、死体を室内に持ち込む(共犯者が使われる場合が多い)
イ、死体を高窓などから投げ込む
B)時間的トリック
犯行時刻、または密室であった時間を錯覚させることによるトリック
ア、密室が作られる前に犯行が行なわれる
イ、密室が破られた後に犯行が行なわれる
ウ、密室であった時間に錯覚がある
C)特殊密室
「他殺ではない」又は「被害者は即死ではない」ことが原因となる密室
1.事故・自殺による密室
事故・自殺が他殺に見えるもの。偶然他殺に見える場合や、他殺に見せかけて自殺する場合がある。
2.内出血型密室
犯行後、まだ息のある被害者が部屋に鍵をかけることで部屋が密室となる。
密室殺人の動機
1)自殺に偽装する
2)特定の人間等を疑わせる
3)超常現象に見せかける
幽霊に罪を着てもらうことになるが、「『そこに幽霊が出てもおかしくない』と他人に思わせる」という条件が必要。
4)犯罪の立証を妨げる
やや消極的な動機。1〜3との兼ね合いで作る。
5)偶然
6)犯人の虚栄心を満足させるために作製したもの
7)職業的義務感
8)犯人のための環境設定
9)ダミートリックへのミスリード
本当に犯人が使ったトリックとは別に、ダミートリックを用意しておく。ダミーへと導く証拠をばら撒くことで嫌疑をのがれようという動機。
実は密室殺人の動機は5の「偶然」を除くと二つに分類することができます。
1〜4は「密室殺人は不可能だ」という、ある意味当たり前の前提のもとで密室が作られた場合の動機です。それに対して6〜9は密室トリックの存在を認めた上で初めて成立する動機です。つまり「密室殺人はトリックによって可能だ」という前提のもとで密室が作られる、メタ密室的な動機である、といえます。
そういう意味で1〜4を「純粋密室作成動機」、6〜9を「メタ密室作成動機」と分類することができます。