それは、凍てつくような、吹雪の晩のことであった。
ムーン大陸と呼ばれる広大な大地の南端に、ともすれば見落として
しまうような小さな村が存在した。
トルンという名のその村を丸ごと覆うような黒い雲。
刃のように切りつける風と、狂うように踊る雪。
だが、薪を切らせたある村人が不承不承に表に出た時の事である。
天を覆う暗雲から、ひとすじの閃光が大地に向かって真っ直ぐに伸びた。
「ありゃぁ、何だぁ!」
驚いた村人は、すぐさまその閃光の元へと駆け出した。
荒れ狂う猛吹雪の中、彼をそこまで駆り立てたのは、
空から降るその光が尋常でなかったからだ。
雪の積もった地面を踏みしめ、藪を掻き分けその村人は懸命に光を追った。
暗い空に、その青白い光だけはかき消されない。
覚束ない足元を気にする暇も無かった。
雹に近い雪の礫は容赦なく全身を打ち、次第に視界がぼやけてくるも、
彼はついにそこへたどり着くことに成功した。
トルンの北に位置するだろう、その光の指す場所へ。
光が包んでいたものは、ある女性の住む家であった。
「うへぇ……」
村人が驚異して目を見張ると、その光の帯は暗雲に吸い込まれるように、
見る間に消えうせてゆく。
彼が、その後に耳にしたのは、目前にある女性の家から聞こえた、 元気な赤ん坊の産声だったのである。
こうして、トルンの村に神の子は降り立った。
……神の子の名は「クラウド」
神々が自由に天地を行き来できたこの時代。
クラウドの母親は、この地上に遊んだある神と、知らず出会い恋に落ちた。
2人が出会った日に咲いていた花の花弁と似た痣が、神の子には印された。
「おお、クラウド……愛しい子よ」
母親は神の愛を腕に抱きしめ、穏やかな日々は永遠に続くと思われたのである。
しかし、その愛しい日々は永遠には続かなかった。
不穏な影は、神の子誕生からすでに動いていたのである。
クラウドが誕生してからというもの、神界に住まう神々は地上に姿を見せなくなって
いた。
それから数年後の事である。
どこかで、強大な力を持った悪が生まれたと、トルンに知らせる者があったのだ。
こんな小さな村は狙われまいと思ったのもつかの間。
一番最初に襲撃を受けたのは、その小さなトルンの村であった。
あっという間に、村が壊滅状態に陥ったのは言うまでもない。
「逃げなさい、クラウド! 逃げるのよ、早く――」
悲鳴にも似た、母親の声を聞きながら、クラウドは村人に急き立てられるように
小船に乗せられた。
母親の嗚咽を聞きながら、自分の泣き声を殺しながら…。
夜の激しい海流に翻弄されつつ、クラウドを乗せた小船はトルンからどんどん遠ざ
かっていった。
クラウド……当時6歳。
小さな身体に、重すぎる荷を背負い、勇者はここから出発したのであった。