翌朝。しいちゃんはいつもどおり、ベッドから飛び起きた。
しかし、今朝のしいちゃんはちょっと違う。そう。今日、これから起きることを考えれば、嫌が上でも彼女の闘志は燃えさかり、闘争心むきだしの面構えに寝不足で血走った目がさらに凄みを与え、口元には不敵な笑みさえ浮かんでいた。
「待っとれよ……」
不気味に一言つぶやくと、しいちゃんは一気に街へと駆け出した……! が。
「そうか。あのボケガイコツ連れていかんと」
ワープポイント(橋)に乗ったとたん、「神の力」によって心にもないセリフを喋らされ、1歩後退させられてしまうのだった。
彼の存在は、今後のストーリー展開上、どうしてもはずせないキャラクターであることが、これによって証明されたことになる。
地下室に下りてみると、ガイコツくんは物置台と酒樽の隙間に身をこごめるようにして毛布にくるまり、すやすやと眠っていた。
「こら! いつまで寝とんじゃ!」
すると、ガイコツくんは夢うつつに身をよじりながら甘え声で、
「うう〜ん……。ママ〜ぁ……まだ眠いよぉ……。むにゃむにゃ……」
シャキーン! シャキーン! ただでさえ恐ろしい形相のしいちゃんの頭に角が生えた!
ガイコツくんのボディに容赦ない足蹴りが入る。マジ骨折しなかったのは幸運としか言いようがない。てか、昨夜の件といい、彼の骨は案外頑強というか、さほどダメージを受けないようになっているみたいだ。さすがは「腐っても魔物」というべきか。(ちょと意味違う……w)
「なに寝ぼけとんじゃ、ボケ。勝手に寝とけや、アホ。私ゃ行くで!」
冷たく言い捨て、しいちゃんは、出口の階段へ向かう。
「は……!」
ようやくガイコツくんは目が覚めたようだ。眠気を吹き飛ばすように頭を振り、あわてて起き上がり、後を追った。
「ま、待って……! 待って下さ〜い! ボ、ボクも行きますぅ〜!」
しいちゃんは、すでに階段を途中まで上がっていて、そこで、ことさらゆっくりと振り向いた。
その表情を見て、ガイコツくんは思わず顔を伏せ、竦みあがる。
「お……おはようございます……。す、すみません……寝過ごしちゃって……」
しいちゃんはニッコリ笑って、顔を左右に振った。
「ううん〜かんまんのよぉ〜。眠たいんやったら無理せんと、ず〜っと寝よったらぁ〜? ママは、ちょっとおでかけしてくるわねぇ〜♪」
優しげな、さも「母親」のような猫なで声で……。しかし目が全然笑ってないっちゅーの。
「う……。何もそこまでイヤミ言わなくたって……。少しぐらい大目に見てくれてもいいでしょう? 昨夜、遅かったんだから……」
彼にも「男」としてのプライドがあるのか、珍しく口答えしようとしたものの、
「アホンダラ! 寝不足はこっちも一緒じゃろがッ! これから敵地に乗り込もうか言う時に、そんな気合のないことでどうするッ!!」
しいちゃんの大一喝の前に、ちっぽけな反抗心など消し飛んだ。哀れガイコツくんは、瞬時に「気をつけ」状態だ。
「は、はいッ……! すみませんッ!」
そう返事しながら、(あれ? なるたけ穏便に取り戻すんじゃなかったっけ……?) と、疑問がわいたが、当然口をはさめる余裕などない。
「まあええわい。……で!? ホントについてくる気、あるんやろなッ!?」
「え、ええ……! もちろんですともッ! 力の限り、戦います!」 (あ、あれぇ〜?)
疑問より先に、相手のペースどおり口が勝手に動いてしまう、超小心者の彼であった。
しいちゃんは満足げに大きく頷くと、再び階段を降り、ガイコツくんの側へと寄った。
「よっしゃ! じゃあ、死んでも魔石を取り返すぞ〜ッ! エイエイオーッ!!」
「エ……エイエイオ〜ッ!」
違う、こんなはずでは……? と思いつつも、気がつけば、しいちゃんと一緒に力強く拳を突き上げている、とことん小心者の彼であった。
こんなんでいいのか? ガイコツくん……。
さて、こうしてめでたく誓いの儀式も終了し、「パーティー」を組み2人仲良く? 並んで歩き出したしいちゃんとガイコツくん。
玄関口にさしかかったところで、突然しいちゃんは足を止め、ガイコツくんを振り返った。
「ところでアンタ、そんな姿で、どうやって街までついてくるつもりな?」
「え? あ……そうか。このままだと、やっぱりマズいですかね?」
言われて、自分の容姿をあらためて自分で見つめ直すガイコツくん。これでも本人は、けっこう自分の「骨組み」には自信があったようだ。(うん、でもね、それはあくまで魔界でしか通じないと思うよ、ガイコツくん)
「当たり前じゃ! 街の人、全員腰ぬかすわい!」
「そうですか……」 何となく納得がいかない様子の彼であったが、やがて、
「じゃあ、人間の姿に化けましょう!」
「なに?」
「化け物だけに、ボク、変身することができるんですよ」
「なんと!」
「ただ、非常に力を使いますので、長時間となるとちょっと……」 と言いつつ、「まぁ、見ててください……例えば……」
ピロリロリ〜ン♪( 変身中の音。以下同 )
「キキ……?」
「……猿?」
「キ! 間違えた、間違えた!」
ボヨヨヨヨ〜ン♪
「おお!」
「どうです? これなら、どこから見ても人間に見えるでしょ?」
ガイコツくんは自慢げに、その場でゆっくり1回転して、その人間の完璧な化けぶりを披露した。
「………」
確かに。確かにそれは寸分の狂いなく人間の姿だった。ただし、「オッサン」の。
身なりは立派だが、ちょっとデブってて、RPGの役どころで言えば、「身分高めの金持ちキャラ」ではあるが、いわゆる「金の力にあかせて傍若無人なふるまいをする嫌われオヤジ」とか「あくどいやり方で村を牛耳る悪徳村長」とか、「酒場でお姉ちゃん相手にイケナイことをするスケベじじい」とか、どちらかといえば「ヒール」に割り当てられることの多いグラフィックである。
ハッキリ言って、それは「しいちゃんの好み」ではなかった。
「どうせなら……もっと若くて美形な方が……」
連れ歩くのに心楽しいではないか! 乙女として当然の感情である。
「若くて美形……」
ガイコツくんは首をひねっている。彼にはいまいち人間の美的感覚というものがわからないのだろう。
「ほれ、たとえばFFUのフリオニールやミンウさんとか、ロマンシング・サガのグレイとか……」
んなこと言ってもわかるわけねぇって。しかもスクエアのゲームは先頭1人しか表示されないシステムだし……って関係ないか。
「なら、ドラクエWの仲間になった後のピサロ様とかな〜」
……え? し、しいちゃん、それって言っていいの……? (汗)
「とにかく、勇者タイプか王子様タイプつーかな。いかにも育ちが良さそげで、金髪でスラッとしてて、寡黙で、どこか影があったりして、こう〜女心くすぐるいうかな……」
しいちゃん、言いたい放題である。どこまで彼女の要求する意味が理解できたかはわからないが、ガイコツくんは彼女のため、自分なりに一生懸命想像力を働かせたようである。
「で、では、こんな感じでいかがでしょう?」
キラリラリリ〜ン♪
心なしか変身音も気品に満ちているような気がする。これは期待できるかも? と、しいちゃんは胸をときめかせた。
すると、目の前に、みごと、彼女の期待を裏切らない「しいちゃんの好み」の美形タイプの青年が後光をさしつつ出現した!
色白でキリっとした表情、金髪、決して戦闘用ではないお洒落な鎧をスラッと着こなし、マントをなびかせ、これまた装飾用の剣を腰に帯びている。
思わず彼がガイコツくんであることを忘れ、むしゃぶりつきたくなるほど「いい男」であった。しいちゃんは興奮して叫んだ。
「ええッ! ええで、ガイコツッ! それで決定じゃッ!」
「そ、そうですか? よかった……」
ガイコツくんは、時々ダンジョンで見かける、お供をいっぱいひきつれ遊びまわっている、はっきり言って魔界の者にとっては傍迷惑な人間の金持ちボンボンを思い出してイメージしてみたのだが、どうやらこれで正解だったようである。
それに、なぜだかよくはわからないが、しいちゃんが自分を見る目つきがこれまでとちょっと違うのを感じ、ガイコツくんも無性に嬉しくなった。
この姿のどこがいいのかわからないし、はっきり言って動きにくいし、しんどいけれど、彼女が気に入ってくれたのなら、それくらい喜んで我慢しようと思った。
「ほんなら、改めて出発や!」
しいちゃんは何度も何度も背後のガイコツくんの姿を振り返りみては「ぐふふ」と変な笑いをもらしながら、足どりも軽やかに進んだ。スキップでもしそうな感じだった。
「あ、そうや!」
ワープ地点の手前まで来て、しいちゃんは再び足をとめた。
「どうしました?」
まだ問題があるのかと不安げなガイコツくんに、しいちゃんは背を向けたまま、どことなく照れくさそうに言った。
「ガイコツ……あんたもなぁ、仮にも人間の姿になったことやし……このまま『ガイコツ』ゆうて呼ばれるのもナンやろ」
「……はぁ……」
「人間らしい名前が必要や」
「名前……」
実のところ、ガイコツくんには「名前」というものはないのだった。ガイコツくんは生まれた時から「ガイコツくん」だし、お父さんは「パパ」で、お兄ちゃんは「お兄ちゃん」だ。お友達のガイコツくんはやはり「ガイコツくん」だ。それで何とかなるのだった。区別をつけなければならない時は「××町のガイコツくん」とか、学校では出席番号で呼ばれていた。
「決めた!」 しいちゃんはくるっと振り向いた。
「あんたのことは、これから『ジョーカー』て、呼ぶで!」
「……じょーかー」
「ジョーカー、ええ名前やろ? 『切り札』って意味じゃ。あんたには、これから何かと役にたってもらわないかんみたいやからな、ぴったりやろ!」
しいちゃんは自分の命名センスに満足げだ。
「なんじゃ、気にいらんのか?」
「い、いえ! トンデモない! じょーかー、はい、とっても気に入りました!」
ガイコツくん……いやジョーカーくんは満面の笑みを浮かべて何度もうなずいた。それを見て、しいちゃんも大きくひとつうなずく。
「ほんじゃ、今度こそ行くで! ジョーカー!」
「はいッ!」
お互い、なんとなくまだ面映い気持ちを感じながら、2人はワープ・ポイントへと進む。
しいちゃんとジョーカー、あらたな名コンビ誕生の瞬間であった……!
え〜と、しいちゃん、浮かれる気持ちはわかるけど、これからおっちゃんの店に殴りこみ? に行くんだからね? 目的忘れないように、ほどほどにねぇ〜 (何をや?)