なんと! そいつはガイコツの化け物だった!
雰囲気を盛り上げるためか、BGMは緊迫感あふれる戦闘用のものが流れ始めている。
そいつは、しいちゃんと目(?)が合うと、ガシャンガシャンと不気味な音を響かせながら、こちらへと向かってくる! パニックで、逃げようにも足がすくんで動けないしいちゃんは、後ろの壁までずり下がり、悲鳴をあげるのが精一杯だった。
「ぎえええええええ――!! たたたたたすけてくでぇ――ッ!!」
ついに目の前にまで迫ってきた化け物は、意外にも首を振りながらこう言った。
「ちょ、ちょっと待って下さい! ボクは怪しい者じゃありません!」
「ななななんじゃと〜? どどどこの世界に怪しないバケモンがおるんじゃ、ぼぼ……ぼけぇ〜!」
「あ、そうか! そう言われれば確かにそうですよね! あはは……」
ガイコツは頭をかくような仕草をし、カタカタ音を鳴らして笑っている……ように見えた。
(な、なんじゃあ? こいつ〜?)
えらく調子の狂うバケモンであった。
それに、ガイコツなら普通「ガイコツ剣士」とか「ボーンライダー」とか、強さのレベルによって呼ばれるけれど、こいつは剣も盾も持たず、ましてや馬になんか乗ったりもしてない。 いわゆる理科室の模型、あのまんまなのである。人を襲う魔物にしては、あまりにも貧弱な姿であった。
このガイコツは、本当に怪しくない化け物なのかもしれない。
それを証明するかのように、あの緊迫したBGMは急にフェード・アウトしていった。
「驚かせて、どうもすみませんでした。でも、ホントに安心して下さい。ボクは、はっちゃんの友達の……」
「は……はっちゃん……?」
よもや化け物の口から「はっちゃん」の名前が出るとは思ってもみなかった。しかし、落ち着いて思い出してみれば、確か彼女からの手紙に……。
「あ、そんじゃ……えと、なんだっけ……。あ、そうそう! ……『モルボル』……くん……?」
「……の友達の、ボク、ガイコツくんです! ど〜も、ご挨拶が遅れまして。こんにち……いや、こんばんわ、しいちゃん!」
と、まあ、この化け物は何とも好青年ぽい物言いをするのだった。……好青年? そう言われれば声も見かけ(?)よりずいぶん若い感じがする。
「しし……しいちゃんなんて、気安く呼ぶな……ッ! しのぶさんと呼べ……ッ!」
「は、はい! では……しのぶさん、これでもう、ボクが怪しい者じゃないって、わかっていただけましたよね?」
はぁ〜いはぁ〜い、また新たな真実……と同時に、この物語のアバウトさが発覚しましたねぇ。
そうなんです。しいちゃんの本名は「しのぶ」というのですよー。いいですかー?
じゃ、物語、続けますよー。
しいちゃんは、それでもまだ半信半疑だ。たとえ、凶暴な魔物でないにしろ、
「わ、わかるかい! 怪しないならガイコツくんが、こんな真夜中に私んちの庭先で、いったい何しとるというんよ!?」
そりゃもっともだな、しいちゃんにしては珍しくいいとこついてるではないか。
すると、ガイコツくんは「それが、そのう……」と、なぜか困ったような様子でモジモジしている。やっぱり、怪しい奴なのか?
「あの……ボク、寒いの苦手なんです。説明してると長くなりそうなんで、お部屋の中に入れてもらえませんか?」
恐怖は確かに去ったものの、しいちゃんは驚き呆れかえっていた。
(なな……なんちゅ〜ずうずうしいバケモンなんじゃあ〜!??)
「ほれ、ホットミルク……」
結局、しいちゃんはガイコツくんを部屋に入れてやり、それでもまだ「寒い寒い」を連発する彼に、あまつさえ、ホットミルクまでご馳走してやったのであった。
「あ、どうもすみません。ご無理言って……」 カップを受け取りながらガイコツくんは、「わあ……暖っかい! うれしいなぁ〜。じゃ、いただきます♪」
と、美味しそうにミルクを飲み干した。(……って、どこに入るんだよ! ダーって流れ落ちるだけじゃないのか)
「ああ〜! これでやっと生きかえりました! もう身体が(……う〜ん……)冷え切ってたものだから……。ごちそうさまでした。おかげで助かりました」
身体が温まり、一息ついて、彼はすっかりくつろいだ様子だ。
「いやあ〜それにしても人間界って、ずいぶん寒いところなんですねぇ〜。ボク、生まれてこのかた、ずっとダンジョン暮らしでしょ? いや、ダンジョンも寒いですよ〜」
呑気に世間話まで始めたガイコツくん。いくらなんでも、くつろぎ過ぎだって。
「でも、この地上の寒さときたら! こりゃハンパじゃないですもん! まさか地上がこんなに寒いなんて思ってもみませんでしたよ、いやまったく! ははは……!」
うん、地上には四季ってもんがあるからね。ま、それはともかく、しいちゃんが先ほどからシラーとした冷たい目で睨んでいるのに気づかないのだろうか。よせばいいのに、ガイコツくんはさらに調子に乗って、
「さすがのボクも、この寒さにはいささか参りまして……。ガイコツだけに寒さが 『骨身』 にしみる! なんちゃって! あはははは!」
哀しいかな、ガイコツくん、1人で大受けである。
「バ〜カ。な〜にが 『あはは……!』 じゃ」
ついに、しいちゃんの堪忍袋の緒が切れた。ツカツカと彼につめ寄ると、
「誰もそんな話、聞いとらんわい! いつまでくだらんこと喋っとる気じゃ! このボケガイコツ!」
しいちゃんの怒鳴り声に、彼は思わず顔色をなくした。(……だからよ……顔色って……)
「す……すみません、つい。ボク、生来おしゃべりなもので……」
打って変わり、シュンとうなだれ、それは見た目に可哀想なほどであった。
反対にしいちゃんは、今までの様子から取るに足らない相手だと判断したのか(そら、なめられても仕方ないわな)、すっかりいつもの強気のしいちゃんに戻っている。
「さあ、さっさと白状せんかいッ! アンタがさっき、うちの庭で何をコソコソやっとったんかッ!」
「は、はい……」
いよいよ尋問が開始された。
ガイコツくんは椅子に座らされ、しいちゃんはその横に立って、恐ろしげな顔つきで見下ろしている、という図である。
「……実は、2日ほど前、モルボルくんがここへ手紙を届けにきましたよね?」
確かに。しいちゃんは偉そうに腕組みをしたまま無言で頷く。
「彼、どうやら、その時、落し物をしたらしくって……。ボクはそれを探しに来たんです。 あの、モルボルくんはちょっと事情で抜け出せなくて、ボクが代わりに……。でも、なかなか見つからなくて、あちこちウロウロしてたら、そこをあなたに……」
彼はそこまで言うと、まるで救いを求めるような目(?)で、しいちゃんを見上げた。
「落し物て、いったい何を落としたってのよ?」
「それは……そのう……」 なぜか口ごもりながら、「……石……なんですけど……。黒くて……小さい……」
しいちゃんの頭の上に、「!」マークのふきだしがピコ〜ンと出現した。アレだ。アレに違いない。
「それって、もしかして、ちょっと光っとるやつ?」
「そそ……そうです! ご存知なんですか!?」
「うん。溝に落ちとったけん、私が拾うた」
とたんにガイコツくんは安堵のため息をもらし、
「なんだぁ〜! ああ〜よかったぁ……! いくら探しても見つからないから、もうダメかと……」
と、安心のあまり、今にも泣きそうなくらい喜びの表情(……もういいや……)を見せた。
「アンタも大袈裟やなあ。あれ、ただのガラスやん」
するとガイコツくんは、ガシャガシャ壊れそうなほど頭を左右に振って、
「いいえ! とんでもない! あれは『テュポーンの魔石』という、それはそれは貴重なお宝なんですよ!」
再びしいちゃんの頭上に「!」マークが。そして同時に思わずもれるつぶやき。
「うそ……」
「嘘なんてつきませんよ。なぜ?」
「だ……だって、あれは黒曜石……。ガラスだって、おっちゃんが……」
すでにしいちゃんの目にガイコツくんは映っていない。彼女の虚ろなつぶやきを聞いて、ガイコツくんもさすがに不審を抱いたようだ。
「ちょ……ちょっと、あなた? どうかしたんですか?」
(まさか、まさか……。私、おっちゃんに、騙され……た……?)
返事もせず、ますます様子のおかしいしいちゃんに、 ガイコツくんも、とうとう大人しくしていられなくなった。呆然としている彼女の肩を揺さぶる。
「ねえ、ちょっと〜! なんで黙ってるんですか? 早く、あれ返してくださいよぉ〜!」
は……として、ガイコツくんに気づくしいちゃん。やがて力なくボソボソッとつぶやいた。
「え……? 返せないって……ど、どういうことですか……!?」
「う……売ってしもた……んやもん……」
「ええ――!? う……売ったあ――!?」
ガイコツくんはここへ来てから初めての大声をあげた。
「いったい誰に……!? なんでそんなことを――ッ!! ○■×=@#△――ッ!!」
ついについに凶暴な魔物の本性を現したか、最後の方は聞き取れないほどの叫び声でしいちゃんを問い詰めてくる。
思わずしいちゃんは壁際まで逃げ去った。食われるかもしれん、食われるかもしれん……と震えながら……。
「だって! 知らんかったんやもん! 知らんかったんやもん……!」
激しく頭をふりながら、しいちゃんはもう半泣きだ。
「私も最初、宝石や思うて骨董屋持ってったら、おっちゃんがこれはガラスやって……! ほやけど特別に買い取ってくれる言うんで、つい売ってしもたんよッ! そんなすごいモンやて知っとったら、(たった1000Gぽっちで)売ったりなんかせんかった――!! ごご……ごめんなしゃ〜いぃぃぃ――!!」
しいちゃんは必死で言い訳をし、わんわん泣いて許しを請うた……。
う〜ん…途中、謝りながらも、ちょっと本音が混じってるあたりなんか、こんな状態にあっても「欲」を忘れないとは、さすがはしいちゃんだね!
とにかく、ただのガラスだと思って( 思わされて )いた石が、実は「テュポーンの魔石」というトンデモないお宝だったってわけだ。
で…これからどうする? しいちゃん?