翌朝、フィールドに出てみると、思ったとおり、昨日まではなかった「じいちゃんの家」という新しい場所が増えている。早速、「直線」に乗って「じいちゃんの家」へと向かった。
「嬢ちゃん! 嬢ちゃんじゃないか!」
しいちゃんの姿を見ると、じいちゃんは腰掛けていた椅子から立ち上がり、年寄りとは思えぬ軽やかさで、その場でくるくる何回転もして喜びを表現してくれた。
「じいちゃん、お言葉に甘えて遊びに来させてもろたよ〜♪」
「嬉しいのう! こんなじじいのところへ本当に遊びに来てくれるとは! ささ……たいしたもてなしもできんが、ゆっくりしていきなされ」
そう言って、じいちゃんはしいちゃんに椅子をすすめ、自分は奥へと引っ込んでいこうとしている。どうやらお茶の用意をしにいくつもりらしい。
「じいちゃん、そんな気ぃつかわんでええよ」
しいちゃんは言った。が、決して言葉どおりの意味ではないことは、懸命な皆さんには既にお分かりのことと思う。
「そんなことより、私、じいちゃんのお宝が見たいな!」
そう、わざわざ訪ねてきたのは、別にじいちゃんと茶飲み話なんぞをするためではない。目的はあくまでコレクションを見せてもらうこと。いや、もっとはっきり言えば、その中から何かまた、ちゃっかりいただいて帰ろうという魂胆であったのだ。少なくとも1個、できればもっと……。
「じいちゃんて、実は知る人ぞ知る、お宝コレクターなんやろう? 昨日お話しててすぐわかったよ。だって、ものすご話が専門的やし、それにじいちゃんて、一種風格が漂ってるもんね〜」
……どこがだ。貧相でヨボヨボのじじいではなかったのか。
「すんごいのがあるんやろな〜。見たいな、見たいな〜♪ じいちゃんのお宝♪」
と、最後は得意のかわいい「お願い」ポーズで決める。あわれ、じじいは一発で陥落である。
「ほっほ! そ〜か、そ〜か! 嬢ちゃんはホントに嬉しいことを言うてくれる子じゃのう。おやすい御用じゃ。さ、ついてきなされ。コレクション・ルームは地下じゃよ」
「どうじゃ! これがわしが苦労の末、長年かけて1つ1つ手に入れてきたコレクションたちじゃよ。さあ、ゆっくり見ていっとくれ。どれもこれも、わしの青春の思い出で一杯なんじゃ……」
いかにも自信ありげにじいちゃんが紹介するとおり、そのコレクション・ルームは想像以上に広く立派で、真ん中の通路をはさみ、3方の壁に小部屋が計6つ造られている。アイテム別に分けて整理してあるらしい。通路にも部屋に入りきらないのか、雑然と種々の品々が置かれている。
普段は扉の外からしか見せんのじゃが嬢ちゃんは特別じゃ、と言いながら、じいちゃんは透明ガラス製のドアをあけて、直接小部屋の中へとしいちゃんを入れてくれた。
「兜の間。おっと、無闇に被ってはならんぞい。それは呪われた邪神の面なんじゃ」
「盾の間。どうじゃ、きれいなもんじゃろ? クリスタルの盾じゃよ」
「鎧の間。そのロトの鎧は残念ながら贋作での。さすがに本物は手に入れるんは難しいわい」
「剣の間。ほれ、真ん中のが、エクスカリバーよりさらに珍品のエクスカリパーじゃよ」
こんな具合に、じいちゃんは部屋ごとに説明をしてくれるのだが、しいちゃんは驚きで目を見張るばかりだった。それらは素人の彼女の目にも明らかに「名品」に違いないと判断できるからだ。
( もしかしたら、このじじい、ホントに只者やないんかもしれん…… )
じいちゃんは気前よくお宝を次々に紹介してくれたが、ただひと部屋だけ、
「あ、すまんの。この部屋は入れんのじゃ」
入れんと言われれば入りたくなるのが人情ってやつである。しいちゃんはガラスの扉に顔を押し付けるようにして中をのぞいた。
宝箱が6つほど置かれている。もちろん中身はわからない。しかし、よほど貴重な、高価なものが入っていることは間違いない。
なんだろう……? 鼻息で曇ったガラスを袖口で拭きながら、しいちゃんは気になって気になって仕方がなかった。
さて、そうこうしているうちに全部屋を見終わったしいちゃん。後はじいちゃんからのプレゼントを待つのみだ。いったい、どのお宝をくれるのだろう( まだくれるとは決まってないがな…… )と、彼女の期待はいや増した。
すると、じいちゃんは、
「おお、そうじゃ。通路に置いてある物で気に入ったのがあったら持っていってもよいからの。整理しきれずにいる物なんじゃ。どうせなら嬢ちゃんにもらってもろうた方が彼らも喜ぶじゃろう」
( ……ちッ、部屋以外かよ…… )
まあ、無理もないわなぁー。が、しいちゃんはそんな不満はおくびにも出さず、
「うわぁ……! ホントにええの〜!? ありがとう〜じいちゃん♪」
あくまでブリッコは崩さず、その一方で、そこらに置かれた物々をシビアな目で見定めた。
モノホンのお宝を見てしまった後では、それらは単なるガラクタにしか見えなかったが、それでも売ればそれなりの値段のするものではあるのだろう。「元祖 Hな本」とか「鉄の金庫」とか、よくわけのわからないものばかり、手に持てるだけ全部もらって帰ることにした。
地下から上がると、じいちゃんは今度こそお茶とケーキでもてなしてくれた。
しいちゃんとしては、もはやここに用はなく一刻も早く街へ行ってゲットした品々を換金したかったのだが、いろいろ物をもらった手前、そうもいかない。
3年前に亡くなったとかいうばあちゃんの想い出話( 運命的な出逢いから障害を乗り越えて結婚に至るまで )やら何やら、茶飲み話に延々付き合わされるハメとなった。文句たれつつも、こう見えて、意外としいちゃんは優しい面もあるのである。
「じゃあ、いろいろありがとう、じいちゃん」
「いやいや。気にせんと、ぜひまた遊びにおいで」
玄関口で見送りながら、じいちゃんはとても淋しそうだ。
「うん。じゃあ、バイバイ♪」
しいちゃんがくるりと背を向けて、2、3歩進んだとき、
「あ……! うっかりして、嬢ちゃんの名前聞くの忘れとったぞい!」
「私、しいちゃん」
「しいちゃんか。可愛らしい名前じゃの」
じいちゃんは何か思い浮かべるように、しわしわの目を細めた。
「のう……しいちゃん。実は、わしにはしいちゃんくらいの孫がおったんじゃ。わけあって、今は一緒に暮らしとらんのじゃが……。じゃから、わしにはしいちゃんが本当の孫のように思えてならんのじゃよ。……ぜひ、また遊びに来ておくれ……」
名残惜しそうなじいちゃんの家を出たしいちゃんは、ウェットな雰囲気はすぐ忘れ、その足で街へと向かった。戦利品? を骨董屋で換金し(なぜかおっちゃんには会えなかったが )、念願の最新流行らしいドレスをゲットし、るんるん気分( 死語 )で我が家へと帰って行ったのであった。
今日のしいちゃんの日記
2月6日 晴れのち曇り
今日は、じいちゃんちに遊びに行きました。
期待していたとおり、じいちゃんは大歓迎してくれて、いろいろ珍しい物をもらいました。
その後、長々と聞かされたばあちゃんの想い出話にはちょっと参ったけど……。
じいちゃんには離れて暮らす私くらいの孫がいるんだそうです。なんか、とても淋しそうでした。
何となく可哀想になってきたので、また遊びに行ってあげてもいいかなと思っています。おわり。
日記をしまいながら、しいちゃんはふと思った。
( そういえば、私は生まれた時からずっと1人やなぁ。今まで深く考えたことなかったけど、私の「家族」て、どうなっとんのやろ?)
最近のゲームというのは、異様にキャラ設定が細かく、ゲーム上まったく登場しない人物にまでしっかりと性格付けがなされているという。しかし、このゲームは古い上、そこまでこだわる作者ではなかったらしい。つまりはすべてアバウト、いい加減ということだ。
「ま、ええか! しょうもないこと考えんと、さっさと寝よ」
そう。それでいいのだ、さすがはしいちゃんだね。
しいちゃんはベッドに入り目を閉じる。いつもどおり例のBGMが流れ、朝が来る……はずが、なぜか今夜はいつまでたっても画面が真っ暗のままだった。
フリーズかよ……一瞬そう思った直後、「ガサガサ」「ゴソゴソ」という音が聞こえた。
( なんか、おもてで変な物音が……?)
確かに屋敷の外で、その音はしているようである。
まさか、泥棒? そう考えると、さすがのしいちゃんも恐怖に身がすくんだ。しかし、だからといって、このままにしてはおけない。これは「イベント」なのだから。
しいちゃんは勇気をふりしぼり、ベッドから出て、足音を忍ばせ玄関口へと向かった。
すると、暗闇の中、何者かが橋のあたりでゴソゴソ動いているシルエットがうっすらと見えた。
ああ、言い忘れていたかもしれないが、しいちゃんの家には玄関扉がないので(……おい……)、外が丸見えなのである。
「だ……だれ! そこにおるのは……ッ!」
半分上ずった声でしいちゃんがそう叫ぶと、驚いたようにその何者かが振り向いた。
と同時に、雲間から月が顔をのぞかせ、あたりがサーッと明るくなる……。
月あかりの下、何者かの姿がはっきりと目に映った、そいつはなんと……!
「ば……ば……ばばばば……ばけもの ――――― ッ!!」
さあ、どうなる! しいちゃんの運命や、いかに?