骨董屋 おっちゃんの店。
……空気が重〜い……。
さすがに昨日大暴れしたあとだけあって、店に入れてもらえただけでもラッキーで、店員たちの2人に向けられる視線が異常に冷たいのは無理からぬところであった。
しかし、そんなことを構っている場合ではない。こいつら大勢の中に、「神の使い」の友達、つまりはキーマンがいるはずなのだ。そいつを見つけなければ。
いったいどいつだ? どれも同じグラフィックだから、見た目だけでは当たりをつけようもない。
できれば口をきくのは1人でも少なくしたいところだが、仕方なく、しいちゃんは入り口から順に彼らに話しかけていった。いわゆるローラー作戦である。( ちょと違う……?)
ところが、どんな嫌味や罵声を浴びせかけられるかと思っていたのに、彼らのセリフはみな、初登場時と全く同様、愛想良く「いらっしゃいませ〜♪」であった。
うはは〜! しいちゃんは笑った。空気も視線も単なる気のせいだったのか。おいおい、手抜きもいいとこじゃん♪ ( ち、違う! メモリ不足と言ってほしい…… )
そんなこんなで捜査? を進めていくうちに、何となく話しかけてほしそうに「足踏み」している店員を発見した。コイツだ! RPG主人公の勘がピンときた。早速話しかけてみる。すると、
「!!」
店員は驚き慌てふためいたようにクルクル回転し始め、
「そ、そんな話、ここでされちゃマズいですよぉ……。う……裏にまわってもらえます?」
なるほど、よくよく見ると、彼の後ろには裏口のような扉がある。これまで全く気づきもしてなかったのだが。
言われるとおり、いったん店を出て、あらためて扉の位置を確認してみると、それは建物の北側にあたり、外から見ただけでは屋根に隠れてわからないようになっていた。擬似3Dにありがちの「隠し扉」である。というほどのものでもないがな……と思いながら裏口の場所あたりに立つと、カチャリと扉の開く音がして、気がつくと店内の場面に変わっている。店員が裏口の方を向き、しいちゃんと対峙する形だ。彼はまた1人で勝手に喋り始めた。
「ええ、確かに社長はお宝を持って商談に出かけたようですよ。……どこへ? さあ、私みたいな下っ端の者にはそこまではちょっと……。推理しろったってねぇ……。そうだなあ……」
彼は、ワザとらしくちょっと考え込むようなフリをしてから、
「あ、いつも店に来ている骨董マニアのじいさん! あのひとなんか、いいカモ……い、いえ、いいお客様なんじゃないですか?」
骨董マニアのじいさん……? あのじいちゃんのことか?!
少し意外な気もしたが、しいちゃんは地下のコレクションルームのことを思い出し、あり得ん話ではない、と思った。そうとわかれば、もうここに用はない。じいちゃんの家に急がなければ……!
「私が喋ったって、絶対内緒にしてて下さいよ〜!?」
店員の声を背中で受けながら、しいちゃんたちは店を飛び出した。
じいちゃんちへの道すがら、しいちゃんはガイコツくんに、じいちゃんのことを簡単に説明してやった。彼は、ふむふむ、良いおじいさんなんですねぇ〜と感心したようにうなずきながら聞いていたが、やがて、
「ところで、しのぶさん。さっきの店員さんのことなんですけど、よく打ち明けてくれましたねぇ。いったい何て言って訊き出したんですか?」
「何も言うとらん」
「は……?」
「神の使いのことすら言うとらん」
「え……? じゃ、訊かれもしないのに、彼は自らお店の秘密を話してくれたんですか? なぜ?」
「知るか。ニュータイプなんじゃろ」
「にゅーたいぷ……??」
主人公は何も喋ってないようにみえても、キチンと意思の疎通はできているのだ。
「あのな、ジョーカー。細かいことをいちいち気にしとったら、昔のRPG(H井Y二タイプ)は一生クリアできんのじゃ」
「???」
不毛な会話をかわしているうちに、じいちゃんちに着いた。
「おお、しいちゃんか! よく来てくれたのう♪」
じいちゃんは突然の来訪にもかかわらず、心から嬉しそうに極上の笑顔で迎えてくれた。
前回来た時と同様、のんびりと、ひとりがテーブルについていたようで、来客があった様子もない。
おっちゃんは来てないのだろうか? それとも……。
「ほ〜お? しいちゃんも隅におけんのう〜。こんなハンサムな彼氏がおったとは! こりゃ、わざわざ、わしに紹介しに来てくれたんかの?」
こんな時でなければ、「うへへ♪ええオトコじゃろ?」と自慢のひとつもしたいところだが、今はそれどころではない。が。
「初めまして。ガ……ジョーカーと言います〜。どうぞよろしく〜♪」
「ガジョーカーさんか。いやいや、こちらこそよろしく頼むぞい♪」
「しのぶさんからお話はうかがってます、おじいさんの親切なお人柄や、それに、ものすごいお宝コレクターだということも!」
「ウヒョー! あんたも地下、のぞいていかんかね?」
「え? いいんですかあ?! うわぁ、嬉しいな……あ……はぅッ!」
横からガイコツくんの脚に蹴りを入れ、空気の読めてない2人がのん気に会話を盛り上げているのをストップさせて、しいちゃんは尋ねた。
「ねえ、じいちゃん? つかぬこと聞くんやけど、骨董屋のおっちゃん、訪ねて来んかった?」
「骨董屋の主人とな? いいや。でも、なんでじゃ?」
老人は、いぶかしそうに顔をプルプルと振る。本当に何も知らなさそうだ。
「そう、ならええんよ……」
おかしい……。しいちゃんは椅子に座り込んで首をひねった。神の使いの情報に間違いがあるわけはないが、ここはもう1度戻って尋ねてみるべきなのか……?
しばらくして、「しのぶさん、しのぶさん」とガイコツくんの呼び声がした。振り返ると彼は家の奥側のテーブルの前で何か紙切れのようなものを手にしていて、しきりにこっちへ来いと手招きしている。おそらく、じいちゃんに連れられ、地下の宝物庫に案内される途中で発見したものらしい。
「これはなんですか?」
「あん……?」
ガイコツくんに手渡された紙を見て、みるみるしいちゃんの顔色が変わった。こ、これは……??!
「じ、じいちゃん! コレッ!?」
いそいそと地下室に降りかけている老人を、あわてて呼び止める。じいちゃんはゆっくりとした動作で戻ってきて、
「おお、それはオークションの案内状じゃよ」
「オークション……!」
「3日後に東京で開催されるんでな、久しぶりに、わしもチョコっとのぞいてみようかと思っとるんじゃ」
どこか懐かしそうに目を細めながら、じいちゃんは言った。
(こ、これじゃ! これのことに間違いないッ!) となれば……。
しいちゃんは、じいちゃんの枯れ枝のような両手を力強く握り締めて、
「じじ……じいちゃん! そ、それ、オークション! うちらも一緒に連れて行ってもらえんやろかッ!?」
彼女はダメもとで必死に懇願したが、意外にもアッサリとじいちゃんは、
「なぬ? このじじいと一緒に行ってくれる言うんかね? ウヒョー! そりゃ願ったり叶ったりじゃで。大勢の方が旅は楽しいっちゅうモンじゃからのう♪」
と、心底嬉しそうに、その場で例の喜びの回転をしている。
「いや、でもじいちゃん……実はうちらにはお金が……」
「なあ〜に! 心配ご無用じゃ! アンタらの分くらい、わしが何とでもしてやるわい。そのかわり、お願いがあるんじゃ。オークションの前に、このじじいと東京見物につきおうてくれんかのう?」
「と、東京見物〜!? も、もちろんお供いたします〜♪」
見物と聞いて目の色が変わったのはガイコツくんだ。多分、今の彼の頭には、魔石のことよりまだ見ぬパラダイス東京のことで夢いっぱいになっていると思われた。
「おお、ガジョーカーさんはオッケのようじゃの、しいちゃんはどうじゃ?」
「どうもなにも……。じいちゃん、ありがとう! ホントにありがとう〜!」
しいちゃんは、この孤独な老人の、バカがつくほどあまりにも良すぎる人柄に、そして美味すぎる話の展開に、これがご都合主義ゲームだということも忘れ、思わず涙が出そうになるくらい感激した。
「うんうん、そしたら、前もって明日の飛行機でたつでな。準備を整えて朝の10時にここに来ておくれ」
「10時じゃぞぉ〜、遅れんようになぁー」
手を振るじいちゃんの言葉を肝に銘じ、2人は岐路についた。
「よかったな、ジョーカー。これでおっちゃんの居場所もわかったし、魔石も取り返せるで」
「!!? ど、どういうことです? それに……『 おーくしょん 』って、何ですか?」
やはり、このボケガイコツは「東京見物」のことしか頭に入っておらず、何も理解できてないらしい。
「オークションとはな、簡単に言や、お宝の競売会のことじゃ」
「きょうばい……??」
だ――ッメンドくさい! そう思いながらも、しいちゃんは、この未開人のために気長に説明してやることにした。
「競売いうのはな、お宝が欲しい人が集まって、順にみんなが買値を言うていくんじゃ。他の人が自分より高値つけたら、更に高値をつけかえすこともできる。んで、最終的に、お宝は1番高値をつけた人の物になる、ちゅーシステムのことやがな。ほやから、モノによっちゃ、トテツモナイ値段にまでつりあがることもあるっちゅうわけやな、わかるか?」
「はい、わかりました。でも、それが骨董屋さんとどう……?」
「やから、おっちゃんは、例の魔石をそのオークションに出品するつもりやっちゅうの!」
「!!」
「ええか? その方が、いちいち客を探すより手っ取り早いし、確実に高値で売れるやんか! 珍品中の珍品、テュポーンの魔石やぞ? いくらの値がつくと思う? あの強欲なおっちゃんが、そんな美味しい機会をみすみす見逃すハズがないやろ? 以上により、おっちゃんは東京に、オークションに向かっとるに違いない、というわけや。どや、これでわかったな?」
ガイコツくんは感服したように、大きく何度もうなずいた。
「な〜るほど! ええ、ええ、よくわかりました! いやあ〜それにしても名推理! さすがですねぇ〜!」
などと言われるほどの推理などしてはいないが、彼の熱い尊敬のまなざしで見つめられると、内心満更でもない気分になってくるしいちゃんであった。ホントにコイツがボケガイコツでさえなかったら……。
しいちゃんは、頭をブルブルと振った。そんな浮ついた気持ちを自ら戒めるように表情を険しく作ると、
「そこで、じゃ。ええか、ジョーカー?」
「は、はい?」
「オークションは3日後。幸いにも、じいちゃんのおかげで、うちらは明日東京まで連れて行ってもらえることになった、これでおっちゃんに追いつけたわけや」
「ええ」
「おっちゃんは必ず東京におる。しかし、一口に東京言うても広い、広すぎる! そっからおっちゃんひとりを探すのは不可能に近い」
うんうん、とガイコツくんはうなずく。
「となれば、決戦の場は、オークション会場しかない! うちらは、会場に先回りして、おっちゃんが入ってくるトコをガッチリ捕まえるんじゃ! そして……!」
しいちゃんは手をぐーにして力を込めて言ったが、
「で、でも……もう暴力はいやですよ……?」
エンリョがちに答える彼の杞憂を吹き飛ばすように、しいちゃんはガハハハハと余裕で笑い返した。
「わかっとるてや。そんなことせんでもええ。ジョーカー、あんたには『消える』能力がある。おっちゃんがノコノコやってきたら、昨日みたいにしてコッソリおっちゃんに近づいて、鞄の中から魔石を取り出せばすむ、たったコレだけのことじゃ。どや、これなら楽勝やろ?」
親指を立て、しいちゃんはニンマリと不敵に笑う。それにつられたかのように、ガイコツくんも思わず胸を張って、
「なるほど! はい! それならOKです! 僕におまかせ下さい!」
と、いつになく自信たっぷりな態度を示すのであった。
(これで確実に魔石は取り戻せる……あとはどうやってボケガイコツから巻き上げるか、やな……)
(よかったぁ〜魔石は取り返せるし、オマケに東京見物はできるし……♪)
お互い、微妙に心の中は違っていたが、おっちゃんから魔石を取り返すことにおいてだけはガッチリ意気投合できている。間違いないッ!
「よっしゃあ〜!! ほしたら、これから前祝いといくでぇ〜♪」
「……え?」
「今夜は酒場を貸切りじゃ! パーっ飲もうで! パーっと!!」
「は、はあ……」
意気揚々と、しいちゃんは街の酒場へと向かう。その後ろを何となく不安げな足取りで追いかけるガイコツくん……。
うん……私もなんとなーく嫌なヨカンがするのは気のせいであろうか………。