(ナレーションスクロール BGMは、ゆったりとノスタルジーな曲調で)
ここは・・・都会からず〜っと外れた、ある田舎町・・・
そのまた外れの小さな町に
「しいちゃん」という遊び人が
1人で暮らしておりました・・・
(ナレーション終わり)
目が覚めた。朝だ。私はベッドの上。
なんだ今のは……? 夢か……?
ぼーっとした頭で、とりあえずベッドからおりる。と、その途端に、
「うわ! 雪つもっとるやん! どうりでエラい寒い思たてや」
私は心にも思ってないことを、しかもどこの方言とも知らぬ言葉で口走っていた。
「うう〜さっぶ〜! こう寒いと、何ちゃする気にならんわい……」
確かに窓からのぞく外は一面真っ白の雪景色だ。身体が冷え切っているのも事実である。
「ううう……寒てたまらん……。なんぞ、ぬくいモン出して着替えんと……」
私はまた勝手に独り言を言いながら、隣の箪笥の引き出しをあけ、フード付きコートを取り出して、寝巻き……とも思えぬ服の上に羽織った。
ここはどこだ? 私は誰だ? もしかして、私は……「しいちゃん」……なのか?
そうか……。私はようやく自分の立場を理解した。私はおそらくRPGの主人公なのだ。そして、これからは決められたとおりのシナリオに沿って行動し、喋り続けなければならないのだろう。
改めて部屋の様子を眺めてみる。ベッド、箪笥、本棚。本棚の前には文机と椅子。そして片隅には宝箱……! まさしくRPGの世界にありふれた部屋の模様ではないか。
試しに宝箱をあけてみた。が、中身はカラッポです、というメッセージが流れたのみであった。
ここは寝室らしい。私は部屋を出てみることにした。
隣は寝室よりは少し広めのフロアで、大きなテーブルがあり、暖炉があり、飯を炊く釜や薪、そして壷や樽類が意味不明に配置されていた。
1DKというやつだな。そう頷きながら、さらによく見ると、地下室への階段もあることを発見した。こうなると、何と呼べばいいのだろう?
そんなことは、まあよい。
最低限の生活調度品は揃っているし、小さいながらも住み心地は悪くなさそうだ。
天井を見上げると、見事に何もない。そうだ、2Dの世界では家に天井はないのだった。それでも雨露がしのげるのだから不思議だ。今だって雪は全く降りこんではこない。これはかなり昔のゲームらしいと私は思った。
地下室の探索は後回しにし、いよいよ私は屋敷から外へ出ることにした。両開きの扉をあける。と、どこからかキャンキャンと吠えながら子犬が駆け寄ってくる。ペットも飼っているらしい。
「あんたも寒いんかな。なら、家ん中入っときなはいや」
尻尾をフリフリしている犬の頭をなでながら私はごく自然に言った。もう、あまり違和感は感じなくなっていた。私はRPGの主人公「しいちゃん」なのだ。
驚いたことに、私は自家菜園を持っているらしい。屋敷の右隣は広い畑になっていた。しかし、その畑も今は雪が積もって何が植えられているのかもわからないが。
屋敷は四方をぐるりと小川というか側溝によって囲まれていた。外界への出口は、屋敷の扉のまん前に位置する川に渡された橋のみのようである。
私は思わず駆け寄った。ここを出れば、いわゆる「フィールド」のはずだ。
しかし、積雪にはばまれて先へは進めないようになっていた。
ふふふ……思ったとおりだ。私は不敵な笑いをもらす。
まだ何かし残したイベントがあるのだな。それが終わらないとフラグが立たないというわけか。
私は屋敷に戻りかけ、壁に郵便ポストがあるのに気づいた。中をのぞくと1通の手紙が。差出人は……。
「あ! はっちゃんから手紙が来とる」
「はっちゃん」とは、「しいちゃん」の友人である。そんなことは誰に教えられるまでもなく当然のこととしてわかっていた。
「なにごとやろ? 寒いけん、暖炉のとこで読んでみよう〜っと」
と、やけに説明的で強制的なセリフを吐き、屋敷の中へ私は戻っていった。
暖炉の前の椅子に腰をおろすと、どこからともなく「神の声」がする。
「はい」を選ばなければイベントが進まないのだから、これは意味のない選択肢だな、と私は心の中で誰かに向かって悪態をついた。が、心とは裏腹に私の呑気なセリフは続く。
「手紙よこすやなんて、あの子らしもない。何ぞ悪いことやなかったらええけど……」
以下、はっちゃんの手紙。
「しいちゃん、こんにちわ! 毎日寒いけど、元気にやってますか?
私は今、チョコボのダンジョン201Fに来ています。
降りても降りてもキリがなく、いささか疲れ気味の今日この頃……。
まぁ、それはおいといて。そういうわけだから、まだ当分地上へは帰れそうにありません。
そこでお願いがあるのですが、しいちゃん、1度うちの様子を見てきてくれませんか?
というのも、私が大事にしている鉢植え。あれが最近ちっとも実がならなくて変だなぁと思っていたら、なんと! 留守番のねーちゃんが、なった先から次々に実をネコババしているらしいのです。
という次第なので、どぞよろしく。
あ、そうそう。その時ついでにハムスターの巣ものぞいてきて下さい。
あいつら、こないだ呼んだ時に、生意気にも報酬を要求してきやがったので、1発ブン殴ってやったら2度と来なくなってしまいました。なんて失礼な奴らでしょう! プンスカ!」
どっちがや……。(しいちゃんの心のつぶやき)
「今度地上に戻ったら、おみやげ持って、しいちゃんち遊びに行くから、楽しみに待っててね!
この手紙は、ダンジョンで友達になったモンスターのモルボルくんに届けてもらいます。
じゃあ、これからみんなと宴会なので、今日はこのへんで。では、さようなら」
手紙を読み終えた私は、何度か軽く頭を振った。
「ふう……何のことやら、さっぱりやわ。やっぱ、あの子らしい、くだらん手紙やった。
でもまあ……元気そうやけん、よかった……かな?」
私は立ち上がる。
さて……次にすべきことは? イベントを探して、私は家の中をうろつき回った。
地下室にもおりてみたが、異様にたくさんの酒樽が置いてあるだけで、特に変わったことはない。私が酒飲みであることが判明したくらいだ。
となると、外か。
そういえば、まだ畑の中を散策してなかったことを思い出した。
畑の入り口に、ご丁寧にも「しいちゃんの家庭菜園」と書かれた立て札が立っているのを見て、私は不謹慎にも吹き出しそうになった。何のための誰のための立て札なんだか……。
やはり、畑は雪が積もっているだけで何も見当たらない。しかし、側溝にそって奥に進むにつれ、私はその側溝の中に、光る「何か」を発見した。
これか……!
私は急いで冷たい水の中に手を突っ込み、その「何か」を拾い上げた。
「何やろ? 見たトコは黒い石ころやけど、それにしちゃ、ちょっとキラキラしすぎとるような……」
私はしげしげと手の中の石を見つめた。
「まさか、宝石やったりして! わはは!」
しかし、その笑いはいつしか消え、真剣な眼差しに変わる。
「いやいや、冗談やないかも! ひょっとして、ひょっとしたら、これはスゴイお宝なんかもしれん!」
しいちゃんというのは、ずいぶんと単純で大バカ者なキャラクター設定になっているらしい。早く慣れねば……と心で思いつつ、
「そりゃ、宝石がこんなとこに落ちとるいうのも、たいがいヘンな話やとは思うけど……」
まるで言い訳のようなことをつぶやく。「私」の本音と「しいちゃん」のセリフがミックスされたような……。次第に私たちは同一化し始めたのかもしれない。
「ま、何にせよ、雪が溶けたら町に行って、骨董屋のおっちゃんに見てもらおう!」
そのセリフを吐いた途端、またも「神の声」が聞こえた。しかも効果音つきで……!
おお! これはまさしく、まさしく重要アイテムを手に入れた時のメッセージではないか。
たとえもし、捨てようとしても「そんな大切なものを捨てるなんて!」とか言って捨てることの出来ないアイテムに違いない。
やった。これでフラグはたったはずだ。後はベッドに入れば「ほわんほわん」としたBGMと共に瞬間翌朝になって雪は溶け、橋を渡り、新しいイベントが始まる……!
私は喜び勇んでベッドに潜り込んだ。さぁ、来いって感じだ。何だかよくわからないが。
しかし、目を閉じても、いつまでたってもBGMは流れず夜もあけない。
すると、私は唐突に
「そうや。寝る前に日記つけないけんかった」
そう言って起き上がり、文机に向かい、日記帳を広げるのだった。
なんと七面倒臭いゲームだ! 私は怒りにも似た感情がわいてきた。
「2月4日 大雪」
私は日記を書き始める。
「今日は記録的な大雪で、むちゃめちゃ寒かったです。畑も雪で埋まってしまってて、せっかくの大根やキャベツの苗 (そんなものを栽培してたのか) がどうなるのか、とても心配です。
それから、庭のお堀の中に、きれいな光る石を見つけました。今度、骨董屋のおっちゃんに見てもらうつもりです。宝石だったらいいな♪ (なんだよ、このブリッ子調は?)
それ売ったお金で、お米とお肉が買いたいです。あと、新しいドレスなんかも欲しいんだけどな。
あ、そうそう。はっちゃんから手紙がきました。チョコボが種を盗んで、ねーちゃんがハムスターを殴って、モルボルくんと宴会だそうです。
あれ? ちょっと違ったかな? (全然違うって)
明日は晴れるといいな。おわり。」
……だそうだ。これで、ようやく、ようやく眠れる……。しかし、これから毎晩こんな日記をつけねばいけないのか? 考えただけでジンマシンが出そうだ……。
「おやすみ……」
私は目を閉じる。ほわんほわん……BGMが聞こえ始める。
いよいよ新しい明日が……フィールドが……イベントが……。
ところで、眠りにつく前の私の杞憂は無駄に終わることになる。